【影響力の正体】恩義とLINE既読スルー【書評・レビュー】

影響力の正体

人の心を操る心理学について興味があったので、下記の本を読み始めた。 詳しくは知らないが、Amazonの評価を見る限りは名著ではあるようだ。 こういった、Amazonの評価に踊らされる私も、この本に書かれた影響力の心理学で語ることができる。

影響力の正体 説得のカラクリを心理学があばく

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まだまだ読んでいる途中ではあるが、読み進めながら気づいたことを書いていきたい。

恩義―譲り合いに潜むワナ―

人は誰かから恩を受けたら返さずにはいられない。これは社会的な利益を最大限にするための作用でもある。 まっとうな教育を受けていいば、人の親切には必ず答え、プレゼントされたならば同じようにお返しをするのが礼儀だと教えられる。

つまりなんであれプレゼントを受け取ると、返すまでは心に”恩を返さなければいけない”というしこりが必ずできる。 本では、この恩義を利用した募金活動や営業活動を紹介しているが、ここでは割愛する。

これは人間の根源的な部分に作用するもので、様々な活動においてその作用が利用されている。 ただし、これは私達がその行為について無防備な場合において有効であり、ある程度その行為の目的や問題、対策がわかっていれば、心のしこりを残すことなく対策することが可能である。 (本文中では、ある教団の募金活動ついて事例が載っている。最初は有効だった手段も、その手立てが一般に認知されて対策されることで活動の効果は小さくなってしまった。)

一方的な恩義

この恩義の作用として最もやっかい?な面が、自分が望まない恩義であったとしも返さなければいけないと思うことである。 つまり、相手が一方的にジュースをおごってきたとして、自分も何かしらの形でその恩を返さなければいけないと思うのである。

大事なのは、このルールはときに不公平な取引を引き起こすことだ。 ジュースを奢るのは相手が勝手に押し付けてきたもので、そのあとに見返りを求めるのも相手の勝手である。 しかし、先に恩義を受け取ってしまうと、そのあとの要求には答えざる得なくなるのが人の心である。

本のなかでは次のようにも書かれえています。

恩義のルールを守らず、相手からしてもらうだけで何も返そうとしない人は、仲間内でも酷く嫌われるものです。

LINEと恩義

このことを読んでいて思いついたのがLINEのことである。 LINEでは、相手がメッセージを読んだことが分かる既読機能が付いている。

近年では、この既読も発端となって、相手が既読をつけながらも返信しない行為を”既読スルー”として、その相手をひどく糾弾するようになった。 そして、”既読スルー”は友人関係をこじらせるだけでなく、いじめなどの集団での暴力にも発展するようにもなった。

これは、”送ったものを返さない”、恩義に反する行為として捉えられるため、ここまで深刻な問題となっていると思われる

  • 送った側は、相手が返さないことでフラストレーションがたまる。
  • 送られた側は、返さなければいけないプレッシャーでフラストレーションがたまる。

送られた側は、(勝手に送りつけられた場合でも)返さなければいけないプレッシャーに襲われ、場合にはよってはさらに返事を送ることが億劫になる。 送った側は、(勝手に送った場合でも)相手が返さないことに不満を覚え、相手に対する嫌悪感をますます増大させる。

LINEによって、時間と場所を問わずいつでも連絡が可能になったことで、このような恩義のプレッシャーとフラストレーションに常に晒されている。

LINEと他の連絡手段の違い

前述したように、LINEでは時間と場所をほとんど問わない。 相手が電話の先にすぐ入るような感覚になり、相手がすぐ返事をすべきだと考えるようになってしまう。

手紙は作成と送付に時間がかかることから、すぐには返事を求めない。 メールに関しては、LINEとほぼ状況が変わらないが、なるべく早い返事が求められる。

LINEとメールの違いは、そのインスタンス性だと思う。

メールの場合

メールは手紙が発展した形であり、大抵の場合、相手→自分→相手・・・と交互に発言がやり取りされる。 そしてお互いの発言も、一通である程度目的もはっきりしていて完結している。 そして、もともとが手紙であり、返信に求められる時間にはある程度ゆとりが認められている。 もともと長くかかっていたのが短くなったのだから、反応の時間への許容範囲も大きいだろう。

LINEの場合

LINEはどちらかというと会話の発展形だろう。 2人でも多人数でも、LINEというツールで同時に発言を共有でき、短いメッセージでやり取りされる。 他愛もない会話に利用されることがほとんどで、発言の順番もなく一方的でも構わない。 そして、会話に近いため、発言への反応が即座に求められる。 もともと即座に反応がもらえると思っているものなので、反応の時間の許容範囲もかなり短い

これがLINEに対して極端なぐらい即座に反応を求める理由かと思う。

LINEに対する社会の反応の変化

LINEが普及した当時は既読スルーがすごく話題になっていた。 しかし、近年になるとそれほど話題には登らなくなってきたように思える。(あくまで主観的な感想)

これは社会がLINEにどう対応すべきか模索して、その結果が現れてきた結果のように思える。 LINEの既読スルー問題への反応は様々だが、多くの人がその問題に辟易していた。 そして、既読スルーすべきでないと考えていた人たちも、既読後の返信の強要が、多くの人を苦しめていると少なからず理解したのだと考えられる。

結果として、LINEでメッセージを送ることの”恩義の重さ”が変化して、当初よりも軽くなったのではないか。 返さなくてもしかたない、返されなくても問題ない、そういう捉え方が増えていったのではないか。

前述した教団の募金活動への対策と同様に、LINEへの対応も社会的に進んでいるのだと考えられる。

恩義って怖い・・・

恩義のルールは、社会を豊かにするためにも欠かせないものだ。 しかし、そのルールは思わぬところにも潜んでおり、我々は無意識にルールに縛られる。

物でなくても気持ちや言葉、行為など、一方的なものであっても返さなければいけないプレッシーは大きい。 我々は恩義を返すべき相手を間違わないように気をつける必要がある。